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第5回CSI統計研究会 『統計の品質論とその実践とは?-世界の動きから-』​

日​程2013年1月22日(火) 15301700
場所 : 立教大学 池袋キャンパス 7号館 7201教室
講師:伊藤陽一氏(法政大学名誉教授)
題目:『統計の品質論とその実践とは?-世界の動きから-』​
企画 : 政府統計部会 菊地 進 (経済学部 教授)
座長: 政府統計部会 岩崎 俊夫 (経済学部 教授)
参加者:学内外より25名
当日のレジュメはこちら20130122_1.pdf20130122_1.pdf

第2回CSI統計研究会 

第5回CSI研究会概要

記録作成:政府統計部会
小野寺 剛(立教大学社会情報教育研究センター助教)
鈴木 雄大(同経済学研究科博士後期課程)

 CSI第5回統計研究会は、法政大学名誉教授の伊藤陽一氏をゲストスピーカーにお迎えし、「統計の品質論とその実践とは?-世界の動きから-」をテーマに開催した。伊藤氏はこれまで経済学ならびに統計学の分野で、労働統計やジェンダー統計など様々なテーマに関する数多くの研究をなさってこられたが、今回の研究会のテーマとなった「統計の品質論」も、氏の代表的な研究分野の一つである。

ヨーロッパ統計会議やその他の各統計機関の統計データ品質会議などに精力的に参加され、統計の品質論をめぐる国際的な状況の紹介や関連重要資料の翻訳、さらには国内外の統計関連学会での報告など様々な活動を通じて、「統計の品質論」の紹介と発展に寄与してこられた。

今回の研究会ではそれらの経験を踏まえ、統計の品質論とは何か、といった基本的な解説から、統計品質論の国内外における実践例の紹介、ならびにそれらの検討と今後の展望などに関してご報告いただいた。

今回の研究会テーマに多くの統計実務者(総務省・日本銀行等)からの関心が寄せられ、政府統計関係者を交えた活発な議論が繰り広げられた。CSI統計研究会では今後も統計実務者と研究者とのパイプをつなぎ、交流と高度な研究の場を提供したいと考える。

(報告概要)

1、事例と経過  (統計品質論のイメージを)

​まずはじめに、統計の品質に関する議論の現状を把握するための事例としてオーストラリア統計局(ABS)のLabour Force Statistics における Quality Declaration(品質宣言)を紹介した。ABSにみられるように、国際的な統計の品質論議とは、統計機関が自分たちの統計生産物の品質に関して客観的評価を与え、これを消費者である統計利用者に公表するという方向で展開している。統計の品質と言えば、一般的には正確性(標本誤差と非標本誤差の問題)について理解されるかもしれないが、実は国際的な論議ではその範囲ははるかに拡大され、適合性や速報性と時間厳守性、アクセス可能性と比較可能性など、実に多面的になってきていることを指摘した。

次に、EurostatやIMFといった国際機関におけるこれまでの取り組みや、統計データの品質に関するヨーロッパ会議などの国際会議のこれまでの経過を、氏の参加経験も交えて紹介した(会議の詳細は参考資料参照)。

2.統計の品質論とは何か-意味と重要性-

統計データの品質を高めることは、一般企業における品質向上とそれに関連する企業活動に類似する部分もあり、政府統計の分野でもこれら一般企業と同じ見地に立つ統計活動をめざすことも重要であると解説された。具体的には、企業における「顧客(customer)本位」の姿勢が企業利益拡大に通ずることを例に、政府統計活動においても顧客(統計利用者)本位という考えの重要性、政府統計活動の全過程において、品質管理という思考を徹底することの重要性などを指摘した。​

3.統計品質論の位置と枠組み

統計の品質議論における品質評価枠組みとは、多様な品質構成要素、すなわち統計の品質に関する評価基準を何らかの形で配列あるいは区分したもののことで、IMF による「データ品質評価枠組」(DQAF:Data Quality Assessment Framework)などが古くから一般的であったが、今回は、ヨーロッパ評議会で2005 年に採択され、統計品質論議を一段と進めた新しい展開として注目されているヨーロッパ統計実践規範(CoP::European Statistics Code of Practice)を例に紹介した。

CoPは、政府統計の基本原則が10 個だったのに対して15条の原則から成っており、より詳細化した点が特徴で、この15 条が、制度的環境、統計過程、統計生産物という三大項目に区分されている。例えば「制度的環境」原則は、原則1:専門的独立性、原則4:品質公約、原則6:公平性と客観性など原則1~6条、「統計的過程」原則は、原則7:堅実な方法論、原則9:過重でない回答者負担など原則7~10条、「統計生産物」原則は原則11:適合性、原則12:正確性と信頼性、原則13:適時性と時間厳守性など11~15条である。

また、その他の特徴点として、15 原則の各々について、より具体化した指標が与えられているため(例えば適合性の指標としてR1:利用者満足指数、R2:利用可能な統計の割合など)、これらが実践指導性を備えていることを指摘した。

4.統計品質論の実践  (ヨーロッパ統計システムESSでの例)

ここでは、ヨーロッパ統計システム(ESS)を例に、統計品質論の実践例を紹介した。実践の手段としては、(i)過程の変数の分析、(ii)品質指標の測定、(iii)品質報告書作成、(iv)利用者(満足度)調査、(v)自己評価、(vi)監査(第三者評価をふくむ)、(vii)ラベル付け、(viii)認証があげられる。

これら実践手段について、(i) の過程の変数の分析は早くから各国で行われてきており、指導書にそった詳細分析については各国によって多少違いがあること、(ii)の品質指標の測定はこれまでも現在も行われており、(iii)の品質報告書も、主要な個別統計について一定程度あることを指摘した。その他、(iv)利用者(満足度)調査、(v)自己評価、(vi)監査は一定程度行われているが、 (vii)ラベル付け、(viii)認証については提起にとどまるのが現状である点もあわせて指摘した。

また、ESSにおける統計品質の自己評価の現状は、Peer Review(同業者評価)の総括書、ならびにこれらに基づく議会・理事会への報告まで進んでいることを紹介した。

5.政府統計活動をめぐるより広い動向

政府統計活動をめぐるより広い動向として、(i)専門家倫理の改訂、(ii)国連における政府統計の基本原則の一部改訂と実践調査、(iii)統計の品質に関するサイトの開設、ESSにおける統計品質論実践の一層の強化といった現状の動向を例示し、それらの相対的独立性と相互関係の明確化が必要であることを指摘した。

また、統計品質論の実践に向けて、ESSを中心とする統計品質活動の諸ツールの必要性と要点をまとめ、何をめざすべきかという問題提起に対して、(i)品質宣言の充実(オーストラリアタイプのサイト設計)、(ii)ニーズへの対応(東日本大震災・原発事故でのデータ・ニーズに政府統計はどこまで応えうるか)、(iii)既存統計の品質向上の3点を指摘した。​

6.日本での具体化と実践の推進に向けて

統計の品質に関連して、国連統計部のサイトで「Japan」として取り上げられている文書(例:Guideline of “Quality Assurance” of the Official Statistics of Japan「公的統計の品質保証に関するガイドライン」H22.3.31:改訂 H23.4..8 など)を4つ紹介するとともに、その他主要機関・主要国の掲載関連文献数は、アメリカ:18、カナダ:28、オーストラリア:13、Eurostat:30、IMF:15であることと対比して、その掲載数の少なさを指摘した。

今後の展望として、①更に丁寧な一般的ガイドライン(構成要素論・指標開発、品質評価サイト等の具体化)が必要で、②これに対応する各省ごとの品質保証活動の具体化(各省で検討することではじめて、品質活動は意識的になる)、③利用者との対話・連携の強化といったことが重要であると指摘した。また、「統計の品質評価に関するワーキンググループ」における活発な検討・論議と強力な指導の必要性を指摘し、各機関での品質チームの設立が求められるとしている。

質疑応答コーナー

質問1

ESS(European Statistical System)とCoP(European Statistics Code of Practice)の関係は  どうなっているのか。​

回答 

ESSには将来参加が見込まれる国と、まだ距離を置いている国も含めている。ESSは諸国の統計機関の連合体を指しているにすぎない。CoPは、国連の組織がEUROSTATを中心として委員会を招集し、ESSでどうあるべきかについて議論して定めたものである。CoPは統計品質論そのものではなく、品質そのもの以外のものもかなり含んでいる。

CoPで挙げられている3つ(制度的前提、統計的過程、統計的生産物)は独立ではなく、一体として考えられている。報告の中の、最近の品質論はデータの品質論に集約していっているとの考え方と、CoPの最も進んだものとは異なるのではないか。

データの品質論以外の、制度環境等を落としてしまっていいのかという危惧がある。CoPでは相互に補い、他の原則的なものを打ち出してバランスを取っているように感じるが、日本の場合にはデータの品質論に偏っていることについての危惧している。また、予算削減等と関連し、議会との対抗関係等が考えられる場合に統計品質論、CoPをしっかりやっていれば武器になると考えている。

質問2

日本でもIMF(International Monetary Fund)との対比でそのような取組を行ってきたところもある。これを他の府省に広げていこうとするとどうなるかについての意見を聞きたい。

回答 

ここでの取り組みはSDDSに関するものだと思われるが、IMFのSDDS(Special Data Dissemination Standards)はSNA(Systems of National Accounts)等の重要統計も含むので、単一の機関ではなく日本全体で行っている。そこでは統計制度そのものだけでなく、アクセス可能性、適時性にも取り組んでいる​

質問3

Q2012(統計データの品質に関するヨーロッパ会議、第6回)では、例えばギリシャの報告者が予算の制約の下で、いかに努力しているかについてのアピールが強かったように感じた。各国は統計の品質に対して保障しなければならないが、一方で様々な制約がある中でいろいろと工夫している。アピールするフレームワークとして考えているのではないかと感じた。

回答 

 ギリシャのような特殊な事情を持たない国々のアピールはそれほど強くないと感じた。
 北欧などは比較的率直に、内容的にも優れたことをやってきたと感じる。
 もう一点は、国勢調査の回収不能を公表してもらわないと、品質を保証したことにはならないのではないか。
 回収不能や、解答能力を持つにもかかわらず回答しないといったデータ、弱みを公表するという
 ところまでは、欧州等でも到達しておらず、そのあたりがまだ弱いのではないかと感じた。​


質問4

「公的統計の品質保証に関するガイドライン」は、様々な議論を経て作成されたものであり、内容を見ると公表する項目についてのチェックリストはあるが、各省庁の判断に任せられている部分もある。総務省は公表を積極的に進める方向にはあるが、やはり公表できないデータも多い。

回答 

議会等に訴えていく際に統計の品質が武器になるという意見に関連して。ユーザーが多方面にわたるためにひとつの方向に絞れず、多方面の要求に応えようとすると、高い費用対効果を得ることができないという面もある。

質問5

研究会を含め、「品質」について様々な研究が行われていることがなかなか見えてこないように感じる。​

回答 

  報告での「品質」の概念が広い概念であるため、ひとつのところでやっているのではなく、様々な過程で  分散してやっているために見えづらいということもあるのではないかと感じた。

  統括してやっているとは言えず、それらを統括して行う必要があるだろう。

司会 本日は長時間にわたり貴重なお話をどうもありがとうございました。 (拍手)

以上

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